大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)5721号 判決 1955年11月15日
原告 国
訴訟代理人 古城毅
被告 協栄布帛製品有限会社
主文
被告は原告に対し金三十万四千二百四十五円及び内金二十五万六千五百八十五円に対する昭和二十六年一月一日から完済に至る迄年六分の割合に依る金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮に執行できる。
事実
原告指定代理人は主文第一、二項同旨の判決竝に仮執行宣言を求め、その請求原因として、
「一、原告は被告に対し昭和二十四年七月一日晒金巾等二万五千二百十二ヤールを代金百六十七万六千六百三十一円四十八銭、支払期限はうち百四十二万四千六円七十六銭については右同日、二十五万六千五百八十四円七十二銭については同年十二月二十七日、延滞の場合は日歩十銭の割合による遅延損害金を支払うとの約定で売却した。
二、之に対し被告は同二十四年七月一日右百四十二万四十六円七十六銭を支払つた。
三、仍て、原告は被告に対し右売掛残代金二十五万六千五百八十四円七十二銭及び之に対する昭和二十四年十二月二十八日から同二十五年十二月三十一日迄の遅延損害金四万七千七百六十円六十八銭の合計三十万四千三百四十五円四十銭及び内金二十五万六千五百八十四円七十銭に対する昭和二十六年一月一日から完済に至る迄前記約定利率のうち年六分の割合による遅延損害金の支払を求める」と述べ
被告の答弁竝に抗弁に対し
「一、遅延損害金の約定については元来原告は、その輸出計画に基いて繊維貿易公団を実務代行機関として、業者との間に輸出布帛製品の委託加工契約を締結し業者に原料を交付して右製品を生産させていたが、右契約が昭和二十四年三月三十一日限りで打ち切られた際業者等が保管中の残原斜の払下の要望があつた。そこで同年七月代金支払期限同年七月三十一日とする遅延損害金の利率その他の細目は右公団と業者団体との間で協議の上通産省の承認したところによるとの約定で之を被告その他の業者に払下げた。ところが諸種の事情で約定期限による代金支払に支障が生じたので同月二十八日業者の団体である布帛工業会等は右払下契約の趣旨により業者等の為右公団及び通産省に対し事実上八月十日迄代金支払を遅延することにつき酌量を求め一応七月三十一日迄に手形を差入れるこの場合遅延利息は八月十日迄は日歩二銭八厘同月十一日以降は日歩十銭とする但し七月三十一日迄に手形を差入れない場合の遅延損害金は日歩十銭とすることに同意を求めたので通産省も之を承認し、当時販売価格についての告示が未公布であつた為告示予定価格の八割を以て概算代金とし、残額は右告示公布後計算の上同年十二月業者等に対し右差額を同月二十七日迄に支払うよう請求すると共に前記業者団体の申請に対し承認にかかる遅延利息の範囲内で右差額に対する同年八月十日から十二月二十七日迄日歩二銭八厘の割合による金員(実質的には金利)を請求し且十二月二十八日以降同二十五年二月二十八日迄日歩二銭八厘、三月一日以降日歩十銭の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。しかるところ被告は換算請求金を支払つたに過ぎないから精算の結果の差額二十五万六千五百八十四円七十二銭に対する前記所定の計算の遅延損害金の範囲内で昭和二十四年十二月二十八日以降同二十五年二月二十八日迄日歩二銭八厘同年三月一日以降同月末日迄日歩十銭四月一日以降同年末迄日歩五銭の割合による遅延損害金合計四万七千七百六十円十八銭を請求するものである。
二、尚被告は時効完成する旨主張するが、繊維貿易公団は卸売商人でないから、民法第百七十三条第一号の適用はないからその主張は理由はない」と答えた。
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁竝に抗弁として、
「一、原告主張の取引があり残代金二十五万六千五百八十四円七十二銭が未払であつた事実は認める。但し日歩十銭の割合に依る損害金の特約があつたことは否認する。
二、本件売掛残代金債務については之が支払期限である昭和二十四年十二月二十七日頃既に被告会社は精算中であつたので原告の申出に応じ被告の親会社にあたる訴外協栄布帛製品株式会社が被告の債務を引受け右同額の約束手形を原告を受取人として振出したから被告に対する債務は消滅している、従つて、原告の請求は理由がない。
三、仮りに右債務が債務引受によつて消滅しないとしても民法第百七十三条第一号により支払期限である昭和二十四年十二月二十七日より二年間之が請求をしていないから本件債務は時効により消滅していると述べた。
<立証 省略>
理由
一、原告が被告に対し晒金巾等を代金百六十七万六千六百三十一円四十八銭で売却し之が残代金二十五万六千五百八十四円七十二銭が未払である事実は当事者間に争がない。
二、被告は本件売掛残代金債務について訴外協栄布帛製品株式会社が債務引受をなしたから被告に対する本件債務は既に消滅していると主張するから判断をすると成立に争のない甲第一、二号証乙第一号証、被告会社代表者本人訊問の結果を綜合すれば被告会社は昭和二十四年七月三十日解散してその後被告会社に対し本件債務履行の請求があつたので被告会社は既に清算中であつた関係から、被告会社の代表者が同様に代表取締役であつた訴外協栄布帛製品株式会社に於てその履行の責に任ずべく本件精算金額及び延滞利息(昭和二十四年八月十日以降同二十五年二月二十八日迄の)一万四千五百八十円二十八銭の債務を確認し更に六月三十日右合計金額にあたる金額二十七万千百六十九円の約束手形を振出した事実を認めることが出来るから原告及び同訴外会社間に債務引受契約が成立したものと解することができる。
ところで本来債務引受は之により旧債務者は債権関係より脱退し債務は引受人に移転する効果を生ずるから、かかる効果が発生するについては旧債務を消滅さすことについての特別の事情が存在することを要し、この点について特別の意思表示がないときはその債務引受は旧債務者も併存的に同一内容の債務を負担する所謂重畳的債務引受であると解するのが相当である、之を本件債務引受についてみれば当事者間に旧債務を消滅させることについての特別の意思表示があつたものと認められる証拠なく却つて、証人酒井清平の証言によれば繊維貿易公団の整理にあたつて債務者である会社が解散している場合新に設立された会社で解散した会社と人的構成、資産関係等を同うし実体について変動を認めないときは新会社より債務確認書をとり手形を振出さすのが処理方針であつた事実が認められ之と前示認定の訴外会社が前記約束手形を振出すに至つた経緯を併せ考えると手形の振出はむしろ債務の履行を確保する為にとられた事務処理上の方法であつたものと考えられ本件債務引受は重畳的債務引受と解するのが相当である。従つて被告に対する債務は依然存在するから被告の抗弁は理由がない。
三、次に被告の消滅時効の主張について考えると繊維貿易公団は昭和二十二年法律第五十八号貿易公団法第一条第十六条に規定する如く経済安定本部長官の定める輸出入に関する基本的な政策及び計画に基き主務大臣の定める輸出入計画一及び輸出入手続に従い輸出品の発注買取保管及び輸送竝び竝びに政府に対する売渡等の業務を行う法人であつて民法第百七十三条第一号所定の生産者、卸売商人にあたらないからその主張は採用出来ない。
四、従つて、被告は原告に対し売掛残代金二十五万六千五百八十四円七十二銭の支払義務があると云わねばならない。而して、証人酒井清平、倉持清、桑原田太郎の各証言によれば原告の実務代行機関である繊維貿易公団の廃止に伴い、原告が業者に委託加工させる為に保管させていた原材料を業者に払下げることとなつたが公定価格の決定が遅れた為公定の予想価格の八割を概算払とし残額は精算の上支払うこととなつたが右の精算残額に対する遅延損害金については通産省の指定する払込期日迄は日歩二銭八厘期限経過後は日歩十銭とする旨の約束が業者の代表者としてその中央団体を介し原告との間に成立した事実を認めることができ、前記売掛残代金が右の精算残額に該当すること右残額の支払期限が昭和二十四年十二月二十七日であつたことは弁論の全趣旨より被告の争わないところであるから右精算残額に対する前記認定の約定利率による損害金の範囲内で原告の請求する昭和二十四年十二月二十八日以内同二十五年二月二十八日迄日歩二銭八厘、同年三月一日以降同月末日迄日歩十銭、四月一日以降同年末迄日歩五銭の割合による遅延損害金合計四万七千七百六十円十八銭及び右精算残額に対する同二十六年一月一日以降完済に至る迄年六分の割合に依る遅延損害金の支払義務があると云うべきである。
五、仍て原告の請求は正当であるから認容し訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条、仮執行宣言については同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 松浦豊久)